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ニューヨーク、街と人、そして……
by seikiny1
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夜と朝の間で
 ホームへと続く階段を下りて行くと五本の使い捨て注射器が散乱していた。

 知らない人も多いと思うのだけれど、ニューヨークの地下鉄にも時刻表は存在する。駅によってはあまり目立たない所にひっそりと貼り出している。日本のように堂々と名乗りを上げているのではなく、まるで日陰者のようになぜかできるだけ目立たないように貼られているのがおかしい。もちろんwebからダウンロードする事も出来る。まぁ、普通に考えれば運営する方は事故の起こらぬようダイヤを編成しているわけで、ないほうがおかしいのだけれど。それでもこの街に時刻表は似合わない。いつか来る、必ず来るそんな地下鉄でいい。
「はたして予定通りに来るのか?」
 特に理由はないのだけれどここ数日、時刻表を持って外出している。結果は。なぜかいつも二分ほど早く来てしまう。早く着いてしまったホームで時間調節をするわけでもなくそそくさと次の駅へと向かい、人を吐き出しそして吸い込みまた次の駅へと向かう電車。腕時計は何度もあわせてみた。電池もまだ寿命じゃない。それでも二分早くやって来て、去って行く。地下鉄運営側の時計がくるっているのだろうか。とても几帳面に二分前を歩いて行く地下鉄。ニューヨークらしくもあり、その決めの細かさは彼女らしくもない。
 
 どうしてなんだろう?
 今朝はなぜか時間通りにやってきた。まばらに座っている人達のほとんどが眠っている箱の中。僕が乗り込んで行くと一人が目を開き、少し離れた席へと移りやがった。人を強盗候補とでも思ったのだろうか。用心するに越した事はないけれど、眠ればそれで「ハイソレマデヨ」。洋の東西を問わず、悪い事をする奴はどんなことをしてでもやってのけようとするのだから。安心という言葉がこれほど似合わない乗り物も少ない。お互いにね。
 静まり返った車内でガラスに向かって喋り続けている老女が一人。耳をそばだててみると器用にも一人で二役をこなしている。
 後ろのドアから黒ずくめの男が乗り込んできた。辺りをキョロキョロと見回しながらガラガラの車輌を縦断すると、一度前のドアからプラットホームへ降り、そしてまた前の車輌へと入って行く。どこへ行くのだろう?
 背中で何かが動いている。さっき乗り込んできた男はよりにもよって僕の真後ろに座り込んだ。高速で曲がるカーブでは肩が触れ合ってしまう。乗車率数パーセントの車両内で触れあう赤の他人の肩。日本ではなかなかできない体験だろうけれど、できることならあまりやりたくはない。

 キャナル・ストリートではホームを千鳥足で歩く男がいる。改札のそばで暇そうにしている帽子を脱いだ婦人警官が目だけで彼の後を追いかける。ここにも予定通り、午前四時三十分についた。

 ブルックリン発マンハッタン・バウンドのトレイン。それは大きな音をたてて夜と朝の間を走っていた。同じ箱に乗っていても、同じように眠たげな顔をしていてもそこでは朝を迎えた人と夜のさなかにいる人とが同居をしている。一日のはじまりであり、そして終わりでもある。起点でもなく終点でもない。生きていて死んでいる。

 ニューヨークが素顔のままでいられる時間。
 やっぱり時刻表はいらない。


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by seikiny1 | 2006-11-28 08:52 | 日ごろのこと
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