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ニューヨーク、街と人、そして……
by seikiny1
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ドアとビール
 暗くなるのが早くなってきた。日課の買い物。毎晩近所のデリ(自分では勝手に『My Shop』と呼んでいるんだけれども)に720mlのビールを二本だけ買いに行く。あればあるだけ飲んじゃうから二本だけと決めている。その後は決まって焼酎になってしまうのだけれど。

 例年になく今年はアパートの暖房の具合がいい。気付いたらONになっていた。確か去年の今頃はバスルームでシャンプーが凍っていたはずだ。気付かないほどさりげなく暖房が効いている。一階のドアを開けた瞬間に「オッ!」と思うほど外気が冷たい。
 路地から大通りに出てすれ違う人達はコートのフードをかぶって歩いていた。そこまでは寒く感じないけれど、感覚は人それぞれ。風はあまりない。
 大通りに出るとMy Shopの明かりが見えてきた。その向こうから歩いてくる女性のシルエットがぼんやりと見える。My Shopの前でちょうどはちあう格好になった。一瞬だけ目があって僕は小さくにこりと笑う。どうやら日本人のようだ。目があった直後に相手は目をそらす。ドアを引て彼女はその場に静止した。中から人が出てきた。その直後彼女は身をひるがえすと「ツカツカッ」とブーツの音を響かせて店の中へ消えていった。    目の前でドアが閉まる直前にやっと僕の手が取っ手に届いた。やれやれ……。
 苦笑しながら入った店内はいつもと変わりない。マリオ、とこれまた僕が勝手に呼んでいる店主がニコニコとテレビを横目で追いながらレジを打っている。あいさつをし底を通り過ぎてビールの並ぶ棚に行くと、先ほどの彼女はMy Beerの並ぶ少し先でビールを物色している。通いなれた店内、目をつぶってでもMy Beerを握ってレジに戻る事ができると思う。冷蔵庫のガラスドアの前でまた彼女がチラリと僕を見て目をそらす。

 ニューヨークにいるとこんなシーンを経験する事がよくある。日本人が日本人を意識する事。意識しすぎる事。自分の存在、そしてどう判定していいのかわからない相手の存在自分と言う存在をどこにはめ込んでいいのかがわからないのかもしれない。この二十年弱でなにも変わっていない。決まって(特に女性の場合は)「ツン」とそっぽを向いてしまう。この「ツン」はその心情をよく表しているようで、そしてつらい。誰かにドアを開けて待っていることができるあなたなのに、どうして後ろから来る日本人の僕にドアを支えて渡すことができないのだろう?もしここが日本なら彼女はそうはしないと僕は思う。ここがニューヨークだから。彼女は特別であり、日本人である僕もまた別の意味で特別なのだろう。さて、彼女に続く僕がアメリカ人だったら彼女はどうしたのだろう?やはり同じようにしたのだろうか?とても興味深いところだ。ニューヨークという場所は人を大きくもし、小さくもする。少なくとも僕はそれほど女には飢えていないんだけどね。そして「女性らしさとは?」な度々誰かが言って、たびたび批判の対象となってしまう多くのアメリカ人女性。そんな彼女らのほとんどは支えて待っていてくれる。変な言い方になってしまうけれど、日本人の女性はこの地ではまだまだ<旬>である。「モテル」ということ。そんなところにあぐらをかいているんじゃないかな、とも思ってしまう。そしてドアを支えることの出来ないつぎはぎだらけのマナーはもうすぐ賞味期限を過ぎてしまう、と僕は思う。やはり誰もが人間なんだもの。嫌いなものは嫌い。どこかでぼろが出てきてしまう。
 さて、彼女は部屋に帰って美味しいビールを飲むことができるんだろうか?僕だったら美味しいビールを飲むためだけにでもドアを支えておいてあげる。笑顔と「ありがとう」の言葉は生活するうえで最良のものだから。期待はしていないけれどそれで満足。親切は自己満である場合が極めて多いのだから。それで美味いビールが飲めたら言うことない。

 レジの前で順番を待っていると「ピーッ、ピーッ」。ドアの向こうから笛の音が聞こえてきた。白い息を吐きながら帽子を目深にかぶった女の子が父親に手を引かれて入ってきた。「ここではやめようね」、と制止する父親に素直に従う女の子。君は美味しいビールを飲める女性になってね。

 My Shopから出て見上げた空には満月を一日だけ過ぎたお月様が輝いていた。乾燥した冬の空気がそれをいっそうと美しく見せてくれる。特に雨の翌日のお月様はいっそうきれいだ。

 すべて昨日の出来事。
 ここ数日どこかで機嫌が悪かった。厳密に言うと約一週間。そのレベルがじわり、じわりと上がっているのがわかった。今日考えてみると昨夜が最悪だったみたいだ。今日になってその根が解決した。
 昨夜と同じシーンを今晩見たら果たしてどうなっていたのだろう?まったく違うように感じていたか、それともなにも感じなかったか。とかく生活の中では感情に左右されてしまう事が多い。同じ事でも違う自分の目で見るとまったく変わっていたりする。それでも、目の前でドアを閉じられたらやっぱり気持ちよくなかったかな?

 日本に帰った時に感じた事。エレベーターのスイッチとドアの関係が深い。ボタンを押すとスーッとすぐ閉じてしまう。去年(?)、森ビルで起こった事故もあながち日本人の精神性と無縁ではないのかもしれない。
 アメリカに来て感じた事。エレベーターのドアが閉まらない。今ではなんとも思わない。
 僕はもうズレてしまったのかもしれない。
by seikiny1 | 2005-11-19 09:48 | 日ごろのこと
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