もう会えないと思ってた。
異国で生き別れになってしまった母子のように。
状況はかなり違うが、
7年近く行方不明となっていたぼく。
母の思いはどうだったのだろうか?
なかなかきくことができない。
右手にリーバイス646のベルボトム・ジーンズ。
左手に花柄シャツを下げてレジへ向かった。
15年前、ホームレスになったとき、
住みかとともに失った無数の洋服。
そんな中の1枚。
同色、同サイズ。
もしかすると「あの」シャツそのものかもしれない。
今でも考えることがある。
「あのとき、どうして売ることをしなかったんだろう?」
古着とデッドストックを1枚も。
手放していれば、たとえ足元を見られ買い叩かれたにしても、
莫大な金銭を手にしていたはずなのに。
それは、わかっていたことだったのに。
リクエストのGパンを見つけたあと、
何気なく店内を見回す。
グングングングン引きつけられていく。
最高の1枚だった。
これまで無数の古着を目に、手にしてきたけれど、
まったく同じものがあらわれた。
早足の夢遊病患者のように、しかし一直線に進みむ。
肩がぶつかっても知ったこっちゃない。
腕を通す。
ぴたり。
メジャーなブランドで同種、同サイズというのは、たまに、たまにある。
同種、特大サイズというのはたまにある。
無名といってもいいメーカーのもので、
それほど大量に作られたとは考えがたい。
40年近くの時が生産されてから流れている。
古着マーケットでもほとんど流通していない可能性のほうが高い。
まるで、この日、この時間に、
肉塊とオリーブオイルを持ったぼくがドアを押すことがわかっていたかのように。
待っていたかのように。
これは「あの」シャツなんだ。
もう絶対に手放しはしない。
たとえこの先、太ってしまっても。

こんな体験をしてみると偶然という言葉は信じられなくなる。
これはたった1本の道だった、と。