ニューヨーク、街と人、そして……
by seikiny1
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『 よかったらここから読んでみて下さい 』
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by seikiny1 | 2008-12-31 14:10 | はじめに
So Far Away
 出発の前日であるというのに実感がまったく湧いてこない。コーヒーを片手にタバコを吸っていると口をついて歌が出てきていた。そういえばあの日もこの歌だった。

 一回目とは比べ物にならないほどに緊張感がない。グリーンカードを手に入れたという事実よりも、もっと大きなものが心のひだに染み込んでいたのだろう。二回目の帰国の朝、早起きをしすぎてしまった僕は、もうやることもなくなってしまい、カーサービスが迎えに来るまでの二時間余を新しくできたコーヒーショップで過ごすことにした。

 あれはまだ緑色の看板がマンハッタンを凌駕してしまう前のこと。耳慣れないStarbucksという店名をやっとおぼえた頃だった。静かな音楽の流れる、照明の落とされた店内は週末の朝であるというのに人の姿はまばらで、コーヒーの香りとカップルのささやくような声しかない。アパ-ト前の横断歩道を渡りながら玄関に本を忘れてきてしまったことに気づいたのだけれど、春先の陽射しは「ま、いいか」という気持ちにさせてくれる。

 それでも、紙コップのコーヒーがそろそろぬるくなりかけた頃にはガラス窓の向こうの風景にも退屈をしはじめていた。そんな時にあの歌が流れはじめた。スピーカーからではなく、頭の中のどこかで誰かがつぶやくように歌っている。どうしたわけで流れはじめたのか、なぜその歌であったのかはわからない。歌はリピートボタンを押されたかのように終わることなく延々と流れつづける。

 気づかぬうちに、これまで自分が歩いてきた道をふり返り彼方に忘れてきてしまったものを見つめていたのかもしれない。

 どこまで続くかわからない道にため息をつきながら、はるか遠くにうっすらと映る蜃気楼のようなものを見ていたのかもしれない。

 物理的な距離の変わることはないのだけれど、精神的な距離というものには振幅がある。日本を捨てるようにして出てきたことに比べれば、一時帰国など大したことはない。そんな半分捨ててしまった生まれ故郷、家族の顔を思い浮かべていたのかもしれない。

 昨日よりもいくらか寒さがやわらいだとはいうものの、今朝は小雨が降り続いている。スーツケースを持った係員が笛を鳴らし、タクシーに合図を送る。僕はホテル前の車寄せ近くに腰を下ろしコーヒーを飲んでいる。あの日と同じ曲が口をついて出てきていた。

Dire Straits 「So Far Away」

Here I am again in this mean old town.
And you’re so far away from me.
And where are you when the sun goes down.
You’re so far away from me.

So far away from me.
So far I just can’t see.
So far away from me.
You’re so far away from me.



 明朝、日本へ帰ります。






 そして朝になりました。
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by seikiny1 | 2008-12-25 23:21 | アメリカとの距離
青テント
 暗記教育の是非について永年いろいろと言われている。いい面もあれば、悪い面もあり、そうそういいとこ取りなんて出来るはずがない。
 当事者であった頃のことはさておき、OBの一人としては、
「あれはあれで良かったのでは……」と思う。

 一番退屈だったのは古典の授業。昼飯後の静かな教室によく響く先生の朗読が心地よい眠りへといつも導いてくれていた。それでも平家物語、徒然草、方丈記などの日本古典、いくつかの漢詩などは今でも諳んじることができる。先生の苦労がまったく報われなかったわけでもない。



 交差点で信号待ちをしていると、正面にあるマクドナルドの横断幕がいやでも目に入ってきた。期間限定で発売されているハンバーガーの広告だ。この国の人たちはで満足することができなくなってきたのか。それとも本格バーガーを求める人が多くなってきたのか。
 どちらにせよ、不景気で悲鳴を上げる外食産業が多い中、マクドナルドだけは着実に売り上げを伸ばしているらしい。
「景気悪くって高ぇとこ行けないけど腹減ったな。McDonald's Resrautantにでも行くか……」といったとこなんだろう。
 皆さん外食がお好きです。

 ハンバーガーの写真に胸やけしてしまい、移した眼の先には青いテントがあった。
 二十年ほど前にはまぶしかったテントが、今、くすんで映るのは単に経年劣化のせいではない。トーンの落ちてしまったブルーの中に、最終電車に乗り遅れ、オロオロオしている中年男の表情が重なる。
 かつてはフロリダにメジャーリーグ球団を所有していたビデオチェーンの前を通るたびに、なんだか申し訳ないような後ろめたさを感じてしまい、うつむき加減で目をそらしながらいつの間にか早足になっている自分がいる。
 そんな時に流れ出すのが平家物語の一節。

~沙羅双樹の花の色  盛者必衰の理をあらはす~

 無常。
 スピード感あふれるこの街は、永遠というもののないことを、永久という時が存在しないことを肌身で感じさせてくれる。変わることの必要性と変わらぬことの尊さを教えてくれる。
 


 初めて永久という言葉を聞いたのは幼稚園の頃だったと思う。
 母親がなにかの折りに、少しおどけた感じで結婚のことを〈永久就職〉と呼んでいた。
 時は流れ、社会も変わり、近頃ではそういった結婚観を持つ女性も少なくなってしまっただろう。若い世代には外国語としか聞こえないだろうし、〈差別語〉とやり込められても不思議ではない。使う言葉にこれほど気を使わなくてはならぬ世の中は、決して幸福な状態にあるとは思えない。

 母にとって永久であるかに見えた就職もまた途半ばにして別の局面を向かえ、やがて別会社の社長となった彼女は、今でも発言権のある会長として元気でいる。

 諸行無常。





 今度のの正月は会長と共に日本で迎えます。
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by seikiny1 | 2008-12-01 09:00 | 思うこと
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