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ニューヨーク、街と人、そして……
by seikiny1
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黒色の画用紙にパンダを描いてみる(1)
(チャイニーズ・デリバリーの兄ちゃんに食費を請求される日がくるかもしれない……)

「車はガソリンで走るのです」
むかしむかし、モービル石油のCMはそんな言葉で終わっていた。
ガス欠の車を押す鈴木ヒロミツと藤達也のうしろに、マイク真木の「のんびり行こう」という歌が流れている。
「ジェット機はジェット燃料で飛ぶのです」
「人間は食料(糧)でペダルを踏むのです」
「人はパンのみにて生きるにあらず」
そうですおかずだって欲しいんです。
既成事実となってしまった今、この先、燃料費がゼロとなる日はこないだろう。
燃料危機の次に食糧危機が訪れてもなんの不思議もない。
新聞広告の日本向け航空券料金を眺めながらそんなことを考えていた。

「季節限定松茸ギフト」
「成田空港リムジンバス券(片道)」
「商品券」
色々な特典を各社が打ち出している。
それだけではなんのことだか見当もつかない「キャンペーン実施中」というものまで。
どこで買っても大差ない時代、特典やサービスで客をひきつけ、確保するしかないのもうなずける。
飯を食うのと違ってどこで買っても手に入るものは同じなのだから。
そんな中で目を引いたのは、「ビジネスクラス購入でBOSE社製静音ヘッドフォンをプレゼント」というものだった。
エコノミークラス以外にはこの先も縁のつく予定はないけれど、景品に好奇心が刺激され調べてみる。
「マイクで拾った音の位相をマイナスに変換して音を打ち消す」という原理らしい。
わかりやすく言えば、
38+(-38)=0 あくまで理論的には。
プラスの音をマイナスの音で相殺するらしい。

静音とは静という音であり無音ではない。
そこに存在する音を消し去ることはできない。

初めて飛行機に乗ったときのことを今でも思い出すことがある。
成田発ロスアンゼルス行きのシンガポール航空便。
帰りの切符は捨てるつもりだった。
窓の下に広がる景色を眺めながら
「あぁ、曇りは雲の影なんだ」
そんなことを考えていた。
普通に考えればあたり前のことだけれど、当時はそんな発想をしていなかったのでいたく感動したのを覚えている。
青空にポッカリと浮かぶ雲を見つめながら
「こんなきれいな雲を描いてみたいな」と思っていた。
小さなころは水彩絵の具をうまく使うことができず、水分で波打つ画用紙の青空に浮かぶ雲はいつもにじんでしまっていた。

<絵>と言えば、学生時代にはよくパンの耳をかじっていた、主食として。
「絵を勉強しているので……」と少し離れたパン屋へ行ってはサンドイッチ用に切り落とされたパンの耳を貰う。
たまに引っ付いてくるハムやきゅうりの細長い破片がうれしく、てうれしくて。そんな時には宝物でも見つけたような気分になる。
もちろん、僕の部屋にはキャンバスはおろか、木炭のかけらすらない。
今思えば、パン屋の店員さんもただの貧乏学生と知っていたことだろう。

パンの耳、消しゴム、白マジック、修正液、修整テープ、砂消しゴム、シンナー、タイプライターの修整リボン、deleteボタン……。
様々な消すための道具があり、
こすりとる、削る、分解する、かぶせる、惑わす(ごまかす)、負数の足し算、「なかったもの」とする、初期化に到っては核兵器のようなものだ。
ざまざまな方法がある。
消してしまいたいこと、消さなければならないことのなんと多いことだろう。
そんな中で、消せないもののあることをわかっていなくてはならないと思う。
たとえ消すことができても消すべきでないものも。

出会いはいつも衝撃的だ。
小学生の頃、僕の外での生活は毎朝立ち寄る文房具店からスタートしていた。
別に何かを買うわけではないのだけれど、一日のはじめの5分ほどをそこで過ごすのが大好きだった。
文房具屋のおばちゃんと父は中学時代の同級生で、金にならないガキの相手をおこりもせずによくしてくれ、新しい商品が入ると手にとらせてくれる。ニコニコとしながら。
シャープペンシル、電動消しゴム、コンパス、カーボン紙、ミシン目入りメモ帳、カラス口、ルーズリーフ・ノート、ケント紙、西ドイツ製の小さいがよく削れる銀色の鉛筆削り……。
ほとんどの文房具とはこの店で出会い、それはとても幸せな時間だった。
そして……。
「カタン、カラン、カタン」硬く、軽い音が静かな店内に響く。
品物の置かれた棚の向こうで、おばちゃんはいつもの笑顔を崩すことなく小刻みに手首を振っている。
音はその手元から聞こえてきていた。
「ほら、この上から書いてごらん」
手渡されたのはマジックのようなもので、振ってみると先ほどと同じ音が聞こえてくる。
軸もキャップもなぜか白いのが不思議だ。
キャップを取って見るとペン先のフェルト部も白く、飛び出ている一本の繊維がどこかボテッとしている。
手渡された試し書き用のメモ帳にペン先を走らせると、誰かが書いた青い漢字が消えていく。
まだ濡れている紙面からは鼻をつく独特の匂いが立ち、白いインクの下にはまだうっすらと誰かの名前が見えている。
白いマジックと初めて出会ったのは雨の降る朝だった。

(つづく)
by seikiny1 | 2008-09-28 06:35 | 思うこと
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