ニューヨーク、街と人、そして……
by seikiny1
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アカ
「あ、Nトレインだ」
 構内の白いタイルに反射する赤い光で、椅子に座っていてもどの路線がやって来たのかがわかる。1年程前に導入された新車両の先頭には、赤いLEDで<N>の 文字がぼんやりと浮かびあがる。しかし、他の路線の新車両はどれも、文字こそ違え同じ赤いエンブレムをつけているので、そのうち、どの電車が近付いてもタイルは赤く浮き上がり、なんのありがた味も感じなくなってしまうだろう。他方では、これまで路線ごとに色分けされていたものの半分は意味をなさなくなってしまい、こんな会話も成り立たなくなってしまうかもしれない。
「なんで帰るの?」
「えーっと、オレンジか黄色」
 週末は、工事で停車駅が変更になることがよくある。新車両の中では、次の停車駅が無機質な録音音声でアナウンスされる。走り始めた電車の中では聞き取りにくい車掌さんの声が、これから各駅停車となることを告げはじめた。
 心地いい。

「あいつはアカだ」
 そんな言葉をしばらく聞かない。僕が子供の頃は労働争議がまだまだ盛んで、ストライキは春の恒例行事のようなものだった。一番楽しかったのは、学校の先生たちのもので、半日か全日が自習となる。お客さんに気を使い過ぎてそんなことを考える余裕がなくなってしまったのか、最近の先生はストライキという言葉を忘れてしまったみたいだ。
「ペタ、ペタ、ペタ……」
 廊下を校長先生のスリッパが近づいてくる。

"Good morning."
 朝、少しだけ早く家を出る日には歩道を掃いているおじさんと出会う。数軒先にバーができてからは、吸い殻、スナック菓子の袋などのゴミが増えた。病気なのか、おじさんの両目はいつも真っ赤に充血している。
 歩道を歩いていると、見慣れぬ貼り紙が目に入った。
"Keys found. Ring the bell."
 酔っぱらいがカギを落としていったのだろうか?

 2日が過ぎた。
 まだ紙は貼られている。

 目覚まし時計はどんな音をしていたっけ?」
 ベルが鳴る数分前に目が覚めてしまう。
 月曜日は15分前に目が覚めた。目を覚まさされたのにもかかわらず、心地よい目覚めだった。
 日曜日の夜に閉め忘れた窓。そこからは、
「チュ、チュ、チュ、チュ、チュ、チュ、……」
「ピーッ、ピ、ピ、ピ……」
 小鳥のさえずりが聞こえてくる。
 窓から外をのぞいてみると、電線の上でカップルの赤い小鳥がおしゃべりの真っ最中。

 少しずつ場所を移動しているみたいだけれど、僕が出かけるまで楽しそうにしゃべっていた。

 今年はもう半分以上あきらめかけていた。
 台所の窓の外でひと冬を越した植木鉢は沈黙したまま。あるのはいい具合に広がった艶やかな苔と雑草の芽ばかり。
 今朝のこと、植木鉢を部屋へ入れてよくよく見てみると、雑草とばかり思っていた青い双葉の下から、直径2mmほどの赤味を帯びた葉がのぞいている。
 昨秋に落ちた紫蘇の種が芽をふいた。
 あと少し育ったら、約束通り、数株をT君に分けてあげよう。




 気づいてみると、ここ数日、春のことをあまり考えなくなっていた。
 春が来た。
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by seikiny1 | 2008-05-01 09:51 | 日ごろのこと
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