ニューヨーク、街と人、そして……
by seikiny1
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The Dock of the Bay
「ねぇ、ちょっと、ちょっと」
 少年が手まねきをする。
「バスの中でいっしょだったの覚えてる?」
「うん」
「あのさ~、お願いがあんだけど」
「どうした?」
「さっきまで立ってたとこに僕も連れてってよ。ほら、あそこに赤いボートが見えるでしょ。もっと近くで見たいんだ」
「うーん。ちょっと待ってて。お父さんに聞いてきてあげるから」
「お願いだから、僕がたのんだなんて言わないでよ」
 少年の声が追いかけてくる。

 バスを乗り継いで海辺へやってきた。ニューヨークのいいところは交通費が安いということ。Metrocard(NY市交通局発行のプリペイド・カード)さえあれば、有効期限内はどれだけでも地下鉄とバスに乗ることができる。それほど人や建物が密集していないこの街では、1時間もゆられていれば、普段とはまったく別の世界へ足を下ろすことができる。それでも、地下鉄駅の周辺はどこもそれなりに発展していて、気まぐれで、せっかちな旅人は、
「うーん、なんかピント来ないな」などと勝手なことをつぶやく。
 終点は低所得者用の集合住宅群、倉庫街を抜け、しばらく行ったところにあった。涼しかった一週間のあとに戻ってきた夏の日だったけれど、埠頭まで歩く間にすれ違う人も少ない。

 こびを売る事を知らないカモメ。
 地べたで日向ぼっこをする鳩。
 沖には数艘の船が停泊している。
 時折、どこからか聞こえてくるチャイム。
 なにより、波の音、風の音を聞くことができる。
 忘れ去られたこの波止場にも、少しずつ開発の手がつきはじめている。
 それでも、まだまだ時間はゆっくりと流れ、時計は要らない。

 不便はいいな。時として自由より貴重ですらある。自由というものがあるからこそ、不便を楽しむこともできるのだろうけれど。不便は僕らが本来あるべき姿なのかもしれない、そんな無責任なことを思ったりする。
「神様、どうか少しの不便さくらいは残しておいてください」

 海面をはねるようにして通り過ぎていくモーターボート。
 観光客を乗せたヘリコプターが何機もバタバタと飛び回っている。こんなものはいらないけれど、不便を楽しむためには我慢をしなければならないのだろう。いや。不便の引き立て役か。

 帰りのバスのことをすっかり忘れていた。


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by seikiny1 | 2007-08-26 07:50 | 思うこと
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