ニューヨーク、街と人、そして……
by seikiny1
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平家物語ブルーズ
 祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり
 棚の前で高校時代の古文の時間を思い出していた。弁当でふくれたお腹を抱えて陽の当たる窓際で聞く先生の声は心地よく僕を夢の国へと引き込んでいく。
 ちなみにこの平家物語の冒頭部分は授業中ではなく、左とん平の『ヘイ・ユー・ブルース』で覚えた。たしか小学校の高学年だったと思う。少し調べてみると、スチャダラパーがサンプリングに使ったり、カンニングにカバーされたりとたまに水面すれすれまでは上がってきているみたいだ。

 腰の具合もだんだんとよくなってきたので、ここ数日は散歩をしている。今日はついでに録画用ビデオテープを探した。よくよく考えてみると最後にビデオテープを買ってから軽く十年は経っている。何軒かまわるうちに出てくるのは井上陽水の『夢の中へ』。
 なかなかみつからない。
 最初に行ったのはニューヨークに古くからある家電量販店チェーンのひとつ。棚の隅でやっと見つけたけれど従業員の誰に聞いてもその値段を知らない。
 次は日本でならイトーヨーカ堂といった感じのディスカウント・デパート。家電売場の一番端にある棚の最下段でやっと見つけることができた。SONY, TDK, MAXELL各社の数本入りのパックが乱雑に置かれている。一本あたりの値段を計算してみると1ドル50セントくらいか。うーん……。頭をひねりながら次の店をあたってみることにした。
 途中にあるスーパーマーケットを覗いてみるとサービスカウンターの奥にばら売りのFUJIのものがある。値段を聞いてみると2ドル98セントなり。微笑だけを残して消えることに。
 最後に行ったのは全米チェーンの大手オフィスサプライ・ストア。そこでもCDやDVDが笑っている棚の一番下でSONYのパック入りが申し訳なさそうにころがっている。値段は一本2ドル程度になる。結局ヨーカ堂まで戻ることにした。

「ある」と思っていたものが突然消えてしまっている事がある。金の事じゃない。
 実際には徐々になくなっているのだろうけれど、頭の中ではついさっきまで『ある』という状態が続いていただけにそのショックは大きい。探して、探して、その間に現実を考えてやっと落ち着いてくる。
 たしかにあの頃は中国製をはじめとする無数の有名無名のブランドが安売り、たたき売りをしていた。一本一ドルもしなかったと思う。あのメーカー群はどこへ消えてしまったのだろう?「売れる!」となだれ込んできた者達は「売れない!」とまた消える時も節操がないのだろう。さっさと見切りをつけて工場閉鎖、解雇、他のビジネスへと鞍替えをする。まぁ、よくて安物のCDやDVDへの乗換えといったところか。消え行くもの、移り行くものには誰もが無情で非常となることができるみたいだ。
 今、マスコミを賑わせている夕張市。実は僕にとってこのニュースはそれ程他人事でもない。福岡県大牟田市という僕の生まれ故郷がいつそうなってもまったく不思議じゃないから。
 かつては三池炭鉱で栄え、三井の城下町、炭都とすら呼ばれていたあの町。十年前の閉山で今は見る影もない。石炭が必要とされなくなり、炭鉱が消えた。町には仕事が必要なのに企業も消えた。て町からは少しずつ灯が消えこの先どうなって行くか僕にはわからない。まるでテープのないビデオデッキの前で腕組をして途方に暮れている男のようでもある。

 CDがレコード市場を凌駕しはじめた頃、レコード針のナガオカは一度倒産した。それでも残された社員によって細々とながらその生産は続けられその甲斐もあって復活する。今回探し当てたビデオテープはどれも日本ブランドのものだった。ネットで調べてみてもやはりそうで、あるネットショップでは百件以上ある商品郡の中で日本ブランド以外で見られたのはRCAとBASFが一件ずつのみ。Kodak, Polaroid, Memorexはとうの昔に手も足も洗い終えて今はピカピカのディスクを磨いているみたいだ。
 早い時期にアメリカブランドを駆逐してしまったがために貧乏くじを引いたのか?それともあれだけビデオデッキを売りまくった国としての責任感、企業倫理か(この国ではそれが法制化されていても何の不思議もないのだけれど)。できればただの貧乏くじではなく倫理であって欲しい。
 法は倫理が通用しなくなった荒野で獣を縛るためのものなのだから。

 高校時代に一番眠気を誘った科目は倫理と古文だった。なぜだろう、今その教科書を読んでみたいとたまに思うことがある。
 僕が死ぬ前にかろうじてバランスを保っている倫理が崩壊したら……。

 死の床に横たわる僕の耳に隣の部屋から「カチッ」という音が聞こえてくる。
(カーチャンめどうやらスイッチをいれたようだな。
 死んじまうんだからどうでもいいけど、あのクローン中国製じゃないだろうな。変なとこでケチったりするなよ。別にうらみはないが中国製はなんだかメインテナンスが悪いような気がしてな)

 平家物語は続く
 沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす
 驕れる者久しからず、ただ春の世の夢の如し
 猛き者もついには滅びぬ。ひとえに風の前の塵に同じ。

 今日はまだ眠くならない。

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○この記事を読まれて<なにか>を感じられた方。
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by seikiny1 | 2007-03-02 10:57 | 日本とアメリカと
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