ニューヨーク、街と人、そして……
by seikiny1
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サラダが食いたい
 目の覚めるようなファインプレーなんてできっこないけれど、今ではボテボテのゴロ、ゆるい放物線を描くフライ、たまにはグローブを構えている所にちょうど飛んできたライナーまで取ることができるようになった。
 たしかに大きな転換期がいくつかあったことに思いあたる。
 
 酒の味を覚えてから食べはじめ、気づいたら好物となっているものがある。
「サラダが食いたい!」と、発作的に思ったのはアメリカに来て数週間後のこと。砂漠を渡る長距離バスの上だった。
「楽しむために身体だけは丈夫にしておかなくちゃ」と、思い立ち、食事のバランスを気にしだしたのはドラッグにどっぷりとつかりこんでからのこと。
 ホームレスになりたての頃は選択肢も少なく、スープキッチンで口にすることのできるものは「ここよ」とばかりに詰め込んだ。
 父が高血圧に起因する病で倒れてからは薄味にするように気を使うようになり、またそれを楽しむことができるようになっている。食に限らず、すべてにおいて〈味濃い〉ものが大好きだった僕なのだけれど。
 人の好き嫌いはともかくとして、こうして僕の好き嫌いは少なくなりその分だけ食の守備範囲も広がっていった。
 食べることができる。しかも、そこに選択肢があるということはやはり幸せなことだと思う。子供の頃「お前はわがままだ!」の言葉に頑なに反抗していた僕だけれど、今ではある程度首を縦に動かすこともできるようになった。依然として嫌いなものは絶対に口にしないのだけれど。
 あぁ、今食べているこの冷奴。おろし生姜が欲しい……。

 けつまずいたり、跳び上がったりしながらもなんとか英語の本を読む事ができる。
 さて、十年タイミングがずれていたらどうなっていただろう。道端に落ちていたペーパーバックに手を伸ばすことはたぶんなかっただろう。そうなればアメリカに二十年もいて英語の本すら読むことの出来ない愚か者がここに一人いることになったわけだ。不便はどこかで役に立つもの。歴史とは後から振り返って評価を下す学問に過ぎないのかもしれないけれど、とりあえずそんな社会状況には感謝をしている。
 今のニューヨークには日本の活字が文字通りあふれかえっている。しかもそのほとんどを無料で手に入れることができ、素通りする活字は瞬時にゴミと化す。まるでタダで入場を許された食い放題の会場にいるような気分になってしまうことすらある。たくさんの選択肢があり、決して飢えることのない社会に僕達は生きている。これは幸福なのか、不幸なのか?
 ひとつだけ言えることは、あることが当然となってしまったものから幸福を感じることがあまりないということ。それは永年一緒にいる恋人と似ているのかもしれない。失ってしまった時にはじめてあの時が幸福であったことに気付く。もう遅すぎるのに。わかっているはずなのに。

 昨夜のこと。
 部屋に戻り、ビニール袋を開いてみてはじめて気づいた。店内をまわりながらかごに入れている時や、レジカウンターでの計算の時にはまったく気づかなかったのに。それはどう見ても、どう考えてもバランスの取れた食事と呼ぶことはできない。まるで子供の頃に、何時間も変わることのない景色をバスの窓から眺めていたあの頃に戻ったかのような食事内容だった。気づいたらサラダが食いたくなっていたみたいだ。
 黄色いビニール袋から出てきたもの。それは十四冊の小説と、たった一冊のエッセイだった。肉も魚もない食事に佃煮が一品。今の僕にはきっと生野菜が不足しており、それを補給するためにきっと脳から信号が送り出されていたのだろう。そして、と言うかやはりと言うべきかサラダは美味しかった。

 実は〈近づいてはいけない場所〉に昨日は足を踏み入れてしまった。そこへ行くと止まらなくなってしまう。Book Off New York。
 また別の栄養が不足していたのかもしれない。今日の午後もそこに立っていた。黄色い袋の中にはなぜか古語辞典。これが読んでみると意外とおもしろい。ただ、こいつは野菜ではない。二日酔いの朝に飲む熱い味噌汁といったところ。

 不足しているものを本能が求め、しかも手に入れることができる今。やはり幸福であると言わなきゃいけない……。


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by seikiny1 | 2007-02-06 08:41 | 思うこと
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