ニューヨーク、街と人、そして……
by seikiny1
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31
お願い
当サイト・メインコンテンツ内にある全ての著作権は筆者に帰属いたします。無断転載及び流用は固くお断りいたします(トラックバックに関しましてはこの限りではありません)。
以前の記事
カテゴリ
時計台のある町
 はじめてこの町に降り立った時、真っ先に目に飛び込んできたのはこの時計台だった。大きな交差点近くに立つ旧い建物。たぶん築百年程で四十階くらいはあるだろう。この近所で今で郡を抜くその高さからはかつての偉容は容易に想像がつく。
 そんなビルの時計台の上部が黒い幕で覆われてしまってからかれこれ半年が経とうとしている。このビルは現在、商業ビル兼コンドミニアムとして分譲が開始され、そのためのお色直し中ということだ。

 子供の頃《街》へ出るとあちらでも、こちらでも時計を目にすることができた。市役所の最上階、駅の入り口、銀行ビルの外側に取り付けられた電光掲示板、時計屋の軒下では店名入りの少しだけ陽にやけた時計がうなっており、学校、工場、デパートからは時を告げる大音響のサイレンやチャイムが町中に鳴り渡りどこにいても時を知ることができる。
 日本ではどうなのだろう?今、ニューヨークの街を歩いてみると時計の存在の少なさにあらためてびっくりさせられる。もちろんデリカテッセンや小さな商店に入れば壁で時を刻み続けるものと出会うことはできるのだけれど。
 ホームレス時代にラジオを手放さなかった理由のひとつに〈時を知る〉ということがあった。一日中ニュースを流し続ける局にダイヤルをセットしておくと、社会の動きそして時の動きにもついて行くことが出来る。アナウンサーが数分おきに時を知らせてくれるからだ。そのほかでよく利用したものにエンパイア・ステート・ビルディングの電飾がある。毎夜これが消える瞬間に「あ、十二時だ。今日も一日終わったな」と思っていた。華やかさが一瞬にして闇に吸い込まれてしまう瞬間。そんな光景をを見ることがなくなって四年以上の歳月が流れてしまった。
(腕時計を締めることもたまにはあったけれど、大雑把な生活ではすぐにこわれてしまうか、どこかへ行ってしまうかしていた。考えてみればこれほど時計の似合わない生活者も少ないのだから当然といえば、当然か……)

 町から時計が消えて行く。それは人々の生活から時が必要でなくなったからではなく、その関係がより密になったからだろう。まるでなにかを申し込む時に渡される書類に「あたりまえのこと」として住所、電話を記入する欄があるように(そういった欄にはごていねいにも〈*〉マークが添えられ「〈*〉のある欄への記入は必須です」と但し書きがされていたりする)時は知らされるものから知るべきもの、知っていて当然のものへと変わってしまった。今ではほとんどの人が時を持っている。その腕に、ポケットの中に、バッグの中に、携帯電話に……。時はあらゆるところにしみこんでいる。時を知らせるという行為はもはや無用に近いものとなってしまい、時は自分で管理するものとなってしまったのだろうか?
 日時計、水時計、砂時計、蝋燭時計。古くから時は生活にとって大切なものであり、人間はそれを追う事に苦心を重ねてきた。それがいつの間にかなくてはならないもの、あって当然なものとなってしまった。〈時間管理能力〉は今では社会人の最低能力として求められるものとなっている。たしかに時計台全盛の頃まで、人は時を追いかけていた。今、僕達は時に追いかけられている。

 停電の後でも次の日には針を修正してくれていたこの町の大時計。しかし(古くなってしまったためか)暗くなってから灯が入るのはいつも長針だけだった。黒い幕に覆われているのはわかっているのだけれど、駅へ向かう時にはついつい見上げてしまう時計台。きっとこの町に長く住み暮らす多くの人達にこの習慣は染み付いているのだろう。たとえ腕に時計が巻かれていたとしても。
 それが時計台のある町の情景だ。

 テレビを観れば世界中様々な町の光景を目にすることができる。きらびやかな都会に時計を見いだす事は少ない。そんな町では子供たちも腕時計をしているのだろうか?
「時間がわからなくて……」と、みえすいたウソをつきながら暗くなった家のドアをくぐる事はもう許されないのだろうか。時を追うことを知らないで育った子供たちが大人になった社会はどうなっていくのだろう?

 ヨーロッパの町で一番印象に残っていること。それは鐘の音だった。

〓〓〓〓〓〓〓〓〓
○この記事を読まれて<なにか>を感じられた方。
ここを押していただけたらウレシイです。
[PR]
by seikiny1 | 2006-12-18 05:54 | 日ごろのこと
<< クリスマス Wet Paint >>
記事ランキング 画像一覧