ニューヨーク、街と人、そして……
by seikiny1
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ハーゲンダッツ
 実はまだダラスにいます。予定ではもうすでにテキサスを出ているはずなのに……。それでもなんとか明日にはヒューストンへ向かうことができそうです。もちろん「何も起こらなかったら」、という前提つきですが。

 昨日は金曜日。相方のドライバーは宗教上の理由で金曜日の日没から土曜日の日没まで働かない。と言うよりも戒律上それを禁じられているらしい。それはこの旅に出る前からわかっていたことだから一向に構わない。こちらはその《約》二十四時間だけが唯一ひとりになることができる。この時間なしで僕は生きていくことはできない。
 誰もがいろいろなものを背負って生きている。背負いたい人も、そうでない人も。それが宗教であれ、ひとりの時間であれ。なにがしかのものがある。

「何時までに(仕事を)終わればいい?」
 そんな問いへの答え方にもその人の人となり、性格があらわれてくるものらしい。彼の答えは、
「うーん、四時ごろかな」
「いや三時だね」
「ちょっと待って。二時半くらいのほうがいいかもしれない」
 一分弱の間に数字がだんだんと減っていく。もし僕(多くの日本人)が同じ問いを向けられたとしたら。この数字はきっと増えていくことのほうが多いだろう。ギリギリの少し向こうくらいまで。なんとか「なんとか」しようとする。
(正確な日没時間はわからない。彼らがなにを指して<日没>と言うのかも。ちなみにダラスでは午後八時三十分を過ぎてもまだ薄明るい)

「アッ、忘れてた。車のブレーキランプが切れてたんだ」
(この言葉、少なくともこの十日間で数十回は聞いている)
 そう言いながら次の現場へと向かうべく乗ったハイウェイの途中で彼はハンドルを切った。ダラスがどんどん後ろへ遠ざかっていく。時計の針はやっと二時を回ったところだった。
「ダイジョウブだよ。これから行く所のそばにも仕事になりそうな場所があるから」
 滑り込んだ所は野球場のような敷地におそらく数千台の車が整然と並べられたカー・ディーラーだった。ハイウェイを下りる前からSERVICE(修理)と書かれたブルーの大きな文字が目に入っていた。
「エーッと……。どこだったっけかなー」
 整然と並んだピカピカの車の間でまたナビゲーターに戻る僕。
 そこまで足を運んでやったことはといえば、ヒューズと電球の購入。交換ではない。
 ヒューズを入れてみる彼。
「悪いけどちょっとブレーキ踏んでくれないか?」
 ―――――
「おかしいなー、つかないぞ。ウン、きっと電球だな。ま、後から換えることにしよう」
 勢いよくドアを閉めると車はいきなりハイウェイに滑り込む。
 僕は知っている。彼が電球を一個しか手にしていなかったことを。
 彼は知っている。双方のブレーキランプがつかないことを。
 この旅の間にブレーキランプがともる日はやってくるのだろうか?

 気がついてみると車はモーテルのあるイグジットを降りていた。
「ちょっと取ってくるものがあるから」
 そう言い置いて彼は車を降りていく。数分後に戻ってくるといよいよ<仕事になりそうな>所へ。だが、走り出して五分も経たないうちに、
「こっから6マイル(約10キロ)あるんだよなー」、とひとり言。
「もう疲れちゃったよ、今日は。ヤメにしちゃっていいかな?」
 ちなみに僕たちは歩いているわけではなく、車に乗っている。まぁ、運転しているのは彼なのだが。もちろんそれが彼に与えられた仕事でもある。数瞬の間言いよどんでいると突然大きなUターンがはじまりだしていた。
 このハンドルさばきでダラスでの仕事は終わってしまった。

「あ、買い物するの忘れてた」
 モーテルへの途中でつぶやく彼。
「ま、シャワーでも浴びててくれよ」
 そう言い残して彼は消えていく。

 五時になりそうだった。
 彼はまだ帰ってこない。いったいあの<二時三十分>という時間はどこへ行ってしまったのだろう?

 こんな具合で僕の旅程はドンドン延びている。本当に終わりは来るのだろうか?そんなことまで不安になってきてしまう。

 昨日の朝のこと。車のドアに鍵を差し込みながら彼は言う、
「セイキを見習って俺もだいぶオーガナイズできるようになったよ。今朝なんか、ホラ。<たったの>一時間で準備ができただろう」
 僕にできることはと言えば、うなずくことくらいだった。
「あ、いけねー。忘れ物しちゃった」
 いつものごとく予定の時間はもうとっくに過ぎている。
 数分後、氷で満たされた1.5リットルほども入る大きなプラスチック・カップを手にニコニコ顔の彼が戻ってきた。それにコーラを入れておいしそうに飲む。彼はコーヒーを口にはしない。そのかわりと言ってはなんだが、毎朝ハーゲンダッツのアイスクリームをひとつ。
 たしかにダラスは暑いんだけどね……。

 旅が終わったとき、この二人はどうなっているのだろう?
 お互いが、お互いから何らかの影響を受けあっているのかも知れない。それでも僕にはコーラとアイスの朝食はできそうもない。そういえばもう十日以上米粒を口にしていない。今日はメキシカンフードでも食べに出よう。



○この記事を読まれて<なにか>を感じられた方。
ここを押していただけたらウレシイです。



○新しいブログ《ボーカンシャ》です。よかったらのぞいてみて下さい。
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by seikiny1 | 2006-05-14 05:32 | 旅のボヤキ
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