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ニューヨーク、街と人、そして……
by seikiny1
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四辻
♪ 生まれた時が悪いのか
それとも俺がわるいのか ♪

 朝、トイレへ行くために台所を横切った。床の真ん中でネズミが息絶えていた。僕の親指ほどの大きさしかないちいさなネズミ。
 もう一年くらいのつきあいになる。下の住人が引っ越していった頃からうちにも顔を出すようになっていた。台所に置きっぱなしにしていた食物を何度もかじられ、そのたびにこちらも歯噛みをして悔しがった。かじられることのないように食べ物を置く場所にも色々と気を使った。それでアイツはこちらの隙をついてくる。いたちごっこならぬネズミごっこがいつも繰り広げられていた。
 リビングに座っている時、何度も、何度も目の端を小さな灰色が駆け抜けた。
 台所の方からカサカサという音もよく聞こえてきていた。チリ入れの底で静止しているアイツを見かけたこともある。
 そんな時には複雑な感情になってしまっていた。
「ケッ、またネズミかよ」
「がんばってるな」
 そんなアイツももう今はいない。最後の一歩を踏み出す時アイツはどんな気持ちだったのだろう?
 少なくともあとしばらくの間は同じこのアパートで飯を食べ、酒を飲み僕は生きていることだろう。アイツがいなくなっても。

 アイツのなきがらを片付けた。トイレでタバコを喫う。
「チュンチュン……」
 窓から声のするほうに目を移して見たら、隣家の裏庭にある陽だまりのなかで大勢のスズメ、そしてなぜか一羽の鳩が食事中だった。そこには毎朝おばあさんが餌をまく。そんな光景を眺めながら頭の中に流れ出したのが冒頭の歌。子供の頃、父親がよく見ていたテレビドラマ『非常のライセンス』の主題歌。主演は天地茂さんだった。
 陽だまりの中まるまると肥えたスズメたち。数メートルしか離れていないこちらの台所ではネズミ君が息絶えてしまっていた。こんなにすぐそばであるのに、お互いにその存在に気づくことすらなく。どちらも飼われている動物ではないのに、片方はかわいがられあと片方は忌み嫌われてしまう。
 ネズミに生まれてきて幸せだったのか?
 スズメとして生きながらえることは幸せなのか?
 そんなこと誰にもわかりはしない。

 昨年のハリケーン被害にも負けることなくニュー・オリンズではマルディ・グラが今年も開催された。いや、こんな年だからこそ開催したのだろう。歴史に残るものとなったことだろう。
 そんな街で生まれ育ったミュージシャンの中の一人であるDr.John(ドクター・ジョン)。“Right Place, Wrong Time”という曲がここ数年気にかかっている。
 Right Place, Wrong Time
 Wrong Place, Right Time
 Wrong Place, Wrong Time
 Right Place, Right Time
 僕はこの四辻のどこに立っているのだろう?少なくとも最後の箇所には立ちたくない。
 昨日までは邪魔者であり、同時にそこに生のあることが少しだけ喜びでもあったネズミ君。今日はその冥福を祈る気持ちでいっぱいだ。次はなにに生まれ変わってくるのだろう?人間と同じで、そんな問いに
「ネズミ!」と彼も即答するのだろうか?

 そして明日の朝になればこんなことは忘れて僕は目覚めているのだろう。
 僕はこの四辻のどこに立っているのだろう?
by seikiny1 | 2006-03-01 03:51
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