ニューヨーク、街と人、そして……
by seikiny1
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ピン!とくる数の顔
 ちょっと前までそこには“Lasts long!200m!”と印刷されていた。これほどピンとこない日用品の宣伝文句をあまり見たことがない。それも少しだけ実感をともなう数字に変わった。今では“Lasts long!1000Sheets!となっている。要するにミシン目が999本はいっているということらしい。そうは言っても1000回使えるわけではない。
 いまだにピンとこないトイレットペーパーの包み紙。

 距離、温度、重量、容積など。アメリカではその多くをいまだに世界標準に合わせない。それをやると数年分の国家予算が飛んでしまうという。軍需産業があるから。最初の頃はいつも頭の中で加減乗除をやっていた。それでも二十年近くの歳月は、その数字から漠然とした映像を見せてくれるようになった。
 それでもやはりピンとこない。華氏22度と言われるよりも、氷点下5度と言われるほうが「お~、寒いねー」という言葉が自然に出てくる。

 ヨーロッパの安ホテルでチエックインを済ませた後、「何階?」ときくと“3rd Floor”と教えてくれる。墓石のように重いバックパックを背負いきしみ音をたてながら狭く曲がりくねった階段を上っていく。たどりついた最初の階で見上げたプレートには“1st Floor”の文字が。その前で何度ため息をついたことか。“3rd Floorはまだ彼方だった。
 なぜか20:00をよく22:00と混同していた。24時間単位の表記にはどうもピンとこない。夜の酒屋のシャッターの前で悔しさのあまり、何度唇をかんだことか。


 12.24.(もしくは25)という数字を見て、聞いて、今ではほとんどの日本人がピンとくることと思う。これと肩を並べることの出来る数字といえば1.1.くらいだろう。もちろん他にもあるけれど、今の日本ではこの二つが東と西の横綱といっても言いすぎではないはずだ。
 クリスマス。それは日本人の中でとっくの昔に国民的行事としてに浸透し、定着しいる。もちろん宗教的な理由その他でそれを祝えない人や家庭もある。それでもほとんど誰もがこの日を知っている。その日の持つ意味あいはともかくとして、もうこれは宗教的な行事とさえ呼べないかもしれない。家庭の、カップルの、仲間内の日と言ってもそう間違いではないだろう。たしかにその背景にある商業至上主義を否定することは出来ないけれど、こういった日を新しく得て、定着させることが出来たのはすばらしいことだと思う。
 たくさんの人達がこの日の来るのを待ちわびている。その日だけではなく、その前からこの日は徐々にだが既にはじまっている。
 この日は一年にたったの一回だけやってくる、人と人の日。宗教なんてとうに関係ない。ほとんどの人が名目だけということを知って楽しんでいる。人と人が無条件で祝える日なんて、しかもそれが自分の周りを含めてそこにあることなんてそうあるものじゃない。もちろん祝う心境ではない人、一緒に祝う相手のいない人だっている。それでもこの街の空気はそういった心達をも少しだけ癒してくれる。
 冬の一日。それまでの日々。
 それは寒い日であり、日々でもあるけれど街中にあたたかい空気が広がりしみこんでいく。

 「ニューヨークの最高のシーズンはクリスマスだ」
 そんな声をよく耳にする。
 思い思いのデコレーションに包まれライトアップされた街はこの時期、まるで宝箱をひっくりかえしたようになる。あちこちからクリスマスソングが流れ、いやがおうでもクリスマス気分に巻き込まれてしまう。

 この街はたしかに忙しい街だ。誰もが足早に歩き、赤信号を無視することは常識化している。信号が青になっても流れ出さない車の列のどこからかクラクションが鳴り出し、やがて大合唱がはじまる。「動かないものは、動かない」と誰もがわかっていながらそれをやらずにおれぬ街。
 ひとりの女性が向こう側から横断歩道を渡ってくる。信号は青。ところが三分の二ほど渡りきった所で彼女は止まってしまった。上を見上げている。目の先を追ってみると、そこにはキャストアイアンの非常階段が施されたビルが建っていた。カバンからカメラを取り出しファインダーを覗きこむ彼女。なかなか構図が決まらないのか、少しだけ体を前後させたり、伸び上がったりしている。それでもその場所からはほとんど動いてはいない。ストリートのコーナーで車の途切れるのを待っていた僕の前に一台の車が停まった。右折のウィンカーを出している。歩行者用の信号は程なくウィンクをしはじめた。もう一台車が停まる。満足のいくものが撮れたのだろうか、少し伸び上がるようにしていた女の子が少しだけ小さくなって歩き出した。停止していた車はゆっくりと右折をはじめる。横断歩道の端っこで目があった二人は互いに白い歯を見せて別々の方角へ消えていった。
 クラクションは聞こえなかった。

 僕がニューヨークのこの時期が好きな理由。それは街がきれいになるからだけではなく、それ以上に人々の心がアタタカクなる。この街がそういった空気に包み込まれているから。街を歩く誰もがかすかな笑みをたたえているように見える。白い息を吐きながらも、誰もが幸せを感じることができるこの街のクリスマス。

「あいつサボってばっかりで仕事やんないからクビにしようと思うんだ」
 もう十年以上も前になる。友達の口からそんな言葉がこぼれ出してきた。
「でも、もうすぐクリスマスだろ……」
 <あいつ>がクビになったのはクリスマスも終わった金曜日だった。

 クリスマスとはそんな日だ。





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『ボヤキTV』というのができました。

 ニューヨークの日系誌に三年ほど連載している僕のコラム『犬のボヤキ』とこのブログをあわせたようなコンセプトで作っていただいています。ニューヨークの街角でブツブツと言っている動く僕を見ることができます。
 正直言って「観て欲しい」と「観ない方がいいんじゃない」という気持ちが半々です。

 まぁ、これからもボヤいていきます。直らないでしょう。



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by seikiny1 | 2005-12-20 16:11 | 日ごろのこと
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