ニューヨーク、街と人、そして……
by seikiny1
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看板 –その壱-
「またやられてしまった……」
 信じやすい性格のためか、いや、やっぱりただのバカなのかもしれない。
<だまされる>ということとは意味合いが違うのだけれど、信じてしまうことでよく失敗をする。そういった経験のひとつひとつは、その後少しは生かされるのだけれど(一方的に)信じるということによっていつもしくじってしまい、後味の悪い思いをする。やっぱりバカなのかもしれない。
 さて、無条件で信じることのできるものってこの世にはないんだろうか?

 時代の移り変わりと共にいろいろな物が生まれ、そして消えていく。誕生から数年もたてば、誕生の頃の値段を知る者には信じられないような値段で物が売られていたりする。こちらの方が「こんな値段で大丈夫か?」、と首をかしげたくなるような製品もよく見かける。
 コンピューター機器、携帯電話、ビデオカメラ、デジタルカメラ……。本体の値段は本当に安くなった、しかし使っている間に色々と必要な償却部品が出てくる。それはメモリーであったり、バッテリーであったり。これらの値段が本体価格と比べるとかなり高い。
 
 プリンターのインクがなくなってしまった。
 メーカーの純正インクカートリッジを買うと、それは本体価格の四分の一ほどもする。ということは購入時に黒・赤・青・黄の四色のインクカートリッジがついてきていたので、あれはインクを買ってプリンター本体がついてきたことになる。四本のインクを取って、プリンターをインターネットの掲示板などで売ってしまえばその分が浮くわけだけれどそんな面倒くさい事もしたくない。
 ケチな僕はいつも標準品ではなく、無名メーカーの作る互換品を使っている。それだと、純正品の三分の一の値段で手に入れることが出来るから。いつも近所の小さなコンピューター・ショップで買っている。
 これまではそれでまったく問題がなかった。

 ほとんど使うことのない三色のカラーインクが同時に切れた。少なくともコンピューターはそう言っている。カートリッジを振ってみると「ピチャピチャ」と音がするのだけれど、コンピューターさんが「ないよ!」と言いはるので、プリンターさんはその指令に従がい腕を組んだまま動いてくれない。小さな赤い目のようなライトだけがチカチカとウィンクを繰り返すだけ。まったく不便な世の中になってしまったものだ。
 
 重い腰をあげてコンピューター・ショップへ行ったのが土曜日。
 いつもどおりメーカーの純正品を見本として持って行く。わたされた品物を持ち帰り箱を開いてみる。おかしい。ひとつ(黄色)だけが他のものより五ミリほど大きい。箱の表示を見てみるとプリンターのモデルナンバーの二桁目が違う。やれ、やれ。
 それに気付いたのは夜で、すでに店は閉まっている。翌日は日曜日で休業日。月曜日は僕自身が忙しくて行くことができなかった。結局、交換に行ったのは火曜日になってから。
「これでまちがいないはずだ」、彼は言い張る。
 箱を見るとたしかに僕のプリンターのモデルナンバーと同じ数字はある。ひとつのカートリッジでいくつかの機種に対応している。しかし僕の機種は一番安い標準仕様モデル。そのモデルナンバーのあとに、photoとかdeluxの文字は続かない。それを言っても、
「これでまちがいない、これがお前の機種だ」、と言い張る。
 オリジナルのものと明らかにサイズが違うのに、
「いや、これで入るはずだ。お前の入れ方が悪い」、そう言い張る。
 結局、少しまともなマナージャーを呼んで一本分の料金を返してもらう。
 この日はなんとかそれで終わった。

 水曜日はまた一日中忙しくへとへとになり、夜になってやっとビールのゴホウビにありつくことができた。別に何かをプリントアウトする必要はなかったのだけれど頭のどこかで気になっていたのだろう。
「たしかレシートに、『交換は七日以内でないと受け付けない』と書いてあったな」
 ひとりごとを言いながら、また重い腰をあげて残った赤色と青色のインクカートリッジを入れてみる。はいらない……。オリジナルと見比べてみるが大きさは一緒だ。めんどくさげに、横の方から「ヒョッ」と手を伸ばした感じで入れたので入るらなかったのかな?と思いながら今度は正面からやってみる。それでもはいらない。オリジナルとよくよく見比べてみると、新しい方には小さなでっぱりがある。そこが引っかかっているらしい。また箱の表示に目を落としてみる。今度はモデルナンバーの一桁目が違っている。やれやれ……。
 疲れが一気に吹き出してベッドへ行った。

 面倒くさいけど行かなきゃならない。八ドルをドブに捨てる事ができるほど僕はお大尽じゃないから。今日ダウンタウンに出かける途中に寄ることにした。
 レシートも見せながらこの間の男に再び事情を説明した。今度はプリンターのモデルナンバーだけではなく、カートリッジそのもののナンバーも指差して説明した。カートリッジの方の番号も三桁目が違っていた。
 いったん奥に引っ込んだ男がカートリッジの箱を持って帰って来た。箱に大きく書かれているカートリッジの番号を指差しながら、
「これでまちがいないはずだ」、と言う。
 僕も納得してそれらをもらって店を出た。でも何かが引っかかっていたのだろう。十歩と歩かないうちに袋からそれを取り出し確認してみる。番号はあっている。しかし今度は番号の後ろに一文字だけアルファベットが多い。引き返した。男を呼んだ。
「これも違う」
 箱を見るとモデルナンバーも違う。同じ数字はあるが、その後にdeluxとかphotoとかがついている。中身を出してみるとオリジナルの物と大きさが違う。どうやら最初にわたされた黄色と同じ型の色違いをわたされたようだ。それでもこの男は
「これでまちがいないはずだ」、とまた言い張る。
 大きさだけ見てもわかるはずなのに。
「ほら、ここに書いてあるモデルナンバーも違うでしょ」、と僕が言うと。
「いいやこれであってるはずだ」、と言い張る。
 そこには
<僕のモデルナンバー/他のモデルナンバー photo delux>と書いてあった。
 これをその男は<僕のモデルナンバー>、<他のモデルナンバー photo delux>、と言い張るのだ。</>の意味を自信を持って取り違えているらしい。
 大きさが違うのに。
 このモデルナンバーの読み方を男から聞いた時に僕はもうあきらめた。
「だめだこいつ」
 モデルナンバーの読み方を知らないようじゃ話にならない。マネージャーを呼んだ。
 彼と入れ替わりに、ほかの客のところへ行こうとしていた男。数歩行ったところで彼の口が動いた。
“Mother fucker.”という小さな声をともなって。
 僕は男に歩み寄って
「ふざけたこと言ってんじゃないよ」、と言ったが、男は
「お前に言ったんじゃないよ、ほかのことを思い出してつい言ったんだ。お前に言うのなら面と向かって言うよ」、と言う。
 「言った」、「言わない」の水掛け論でこれ以上時間と神経をすり減らしてしまうのもアホらしい。
 少しまともなマネージャーの元に戻って、レシートを見せながら引き算のやり方を教えて残額を返金してもらった。
 あぁ、疲れた。

 結局、都合五日間を費やして、二十七ドルほどのお金と僕の足があっちに行ったりこっちに行ったり。残ったのは時間の無駄とストレス。お店の方だって、あの男だっていい気持ちはしていないことだろう。
 「安物買いの銭失い」とはこういうことなのかもしれない。お金に換算することができないものを失ったような気がする、二十五ドルというメーカー純正品の料金はそういった時間の浪費代とストレス・フリー代ということなのかもしれない。

 店を出て地下鉄に乗るために駅へ向かった。プラットホームでしゃがみこみペニーを拾った。

 僕のプリンターはまだウィンクをし続けている。



―次回へつづく-
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by seikiny1 | 2005-12-02 10:31 | 日ごろのこと
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