ニューヨーク、街と人、そして……
by seikiny1
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やかんのエネルギー
 夏場、むせ返る地下鉄のプラットホームではいつも高校の物理の授業を思い出していた。
<エネルギー保存の法則>。
 「暑さの中におぼれて体力を消耗するのと、扇子を使いカロリーを燃やしながら少しだけの快適さを得るのではどちらが得だろう?」
 目の前の餅に弱い僕の右手はいつもせわしなく動いていた。

 冬の幼稚園。登園してまず最初にすることは、三匹の子豚《ブー・フーウー》のマンガが描かれたアルマイト製のお弁当箱を大きな石油ストーヴを囲むように置かれた<お弁当棚>に置く事だった。そうすればお昼時に温かいお弁当を食べる事ができた。黒いストーヴの上にはいつも大きなやかんがのっていた。
 そういえば冬場にやかんでお湯を沸かしている光景を見た記憶があまりない。石油ストーヴや火鉢の上にはいつもやかんがのり、その細い口からいつも白い湯気を吐き出していた。時としてそれは煮物であったり、金網にのせられた餅であったり。まだ赤ちゃんの頃、僕は火鉢の中に転げ落ちたそうだ。留守番をしていた姉が僕を助けてくれた。あやうく焼き物になるところだった。ありがとう。
 ファンヒーターの増加と反比例するように新聞の社会面から「○○で一酸化炭素中毒、×人が死亡」といった記事が消えていったように思う。やかんが消えて悲しい事故も減った。今、冬場に窓を必ずすかす習慣のある家庭はどのくらいなのだろう?そしてやかんに与えられたエネルギーはどこへ行ってしまったのだろう?

 ドイツを旅していた時に印象的だった風景。それは大きな農家の軒先にうず高く詰まれた大きなたくさんの薪たち。途中下車した小さな田舎町。そこでは目抜き通りを少しだけ外れたところには薪ストーヴの専門店があった。季節は夏。あそこでは薪という天然のエネルギー源が今でも大切に使われている。太陽の恵みを受け、大地の栄養を吸い取った大きな樹が冬には人々にエネルギーを与えてくれる。薪ストーヴの上には何がのるのだろう?そういえば、ニューヨークで知り合った岐阜出身の友人の実家では「今でも暖房は薪ストーヴだけ」と言っていた。彼女の家のストーヴには何がのっているのだろう?もう薪を燃やし出したんだろうか?
 石油高騰のあおりを受けて、今年はアメリカでも薪の売り上げが伸びていると言う(アメリカでは薪は買うものなのかもしれない)。先日もアパートのドアに薪販売業者のチラシがはさみ込まれていた。「石油が高いから……」、という理由からではあるけれど天然のものを見直す動きはいいことだと思う。動機はどうであれ、そこから<なにか>が生まれるかもしれない。

 日本ではやはり今でも部屋単位の暖房の方が多いのだろうか?「トイレに行く時は寒い」のだろうか?
 かつて火鉢で、ストーヴで保存されていたあのエネルギーはどこへ行ってしまったんだろう?

 アメリカの全館暖房の歴史は長い。トイレへ行く時に寒い思いをした経験を持つ人の割合は日本と比べたらかなり低いだろう。アメリカに来た当初、(換気のためではなく)暑さのために真冬に窓をすかして寝ていたことを思い出す。全館暖房をするために燃やしたエネルギーはどこへ行ってしまったのだろう?
 それはやはりここに住み暮らす人達の心のエネルギーになっているようだ。<アタタカイ家庭の図>。ここでは日本とはまた違った家庭のアタタカサを感じる事が多い。やかんのお湯を沸かすことはできなくても、そんな家(庭)で育った人たちに寒いトイレを知る人たちとは違ったものを感じる事がある。それはおおらかさであったり、弱い者を思いやる心であったり、共有するということであったり……。知らず知らずのうちにやかんのエネルギーが違った形に転化されている。どちらがいいと言うのではなく、違ったエネルギーを感じるということ。

 ファンヒーターの温風を受けて育った人たちにはどんなエネルギーが吹き込まれているのだろう?決して無駄なエネルギーとなっていないことを信じる。やかんのエネルギーとは違った形で蓄積され、あらわれているはずだ。それが知りたい。
 エネルギーは保存・蓄積ができるもの。それを<どう>発揮することができるかが肝心だ。自然と発散できていたら言うことはない。


「カチン、カチン……」
 部屋のラジエーターが喋りだした。ここにもやっと暖房がはいったらしい。
 身近にエネルギーを感じるのはやはり空調設備なのだろう。暑さ、寒さの厳しい季節になると<エネルギー保存の法則>を思い出す。

 約二時間後暖房は止まった。
 今年はまだまだアタタカイ。
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by seikiny1 | 2005-11-15 10:34 | 思うこと
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