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ニューヨーク、街と人、そして……
by seikiny1
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あさましき哉、我が胃袋
 この冬一番の大雪の夜、ほかの日本人ニューヨーカー達はどのような夜を過ごしたのだろうか?
 僕はとてもあさましい男になっていた。大雪の中、お寿司の食べ放題へと出向いたのだ。
 ここニューヨークでお寿司の食べ放題の歴史は案外古く、僕の知る限りでも十五年程前にはかなりの日本レストランがそれをやっていた。しかし想像を絶する大食漢の前でシャリを大きくしたり、ネタを薄くしたりという小手先の防御が通用するはずもなくある者は破れ、またある者は店をたたんでいった。そうした中でも脈々と食べ放題を提供し続けてくれていた店もあるが、その数は往時の比ではない。
 「なぜ大雪の夜にお寿司の食べ放題なのか?」、と思われる方も多いことだろう。
 理由は三つある。
 まずそのお店の職人さんを知っていた。ただ知っていただけではなく、その方が長い職人歴を持ちキチッとした仕事をされる事を知っていたからだ。
 次に、先週までの他出では全く日本食を口にしておらず、彼の地でかつての大きさを取り戻した僕の胃袋が求めていたからでもある。
 しかし最大のきっかけとなったのは、他出から帰宅して開いたニューヨークの日本人向けフリーペーパーの特集が食べ放題であったからだ。表紙を開くとまず眼に飛び込んできたのが<お寿司食べ放題>の文字。読み進むうちに職人さんは旧知の方とわかった。その瞬間にもう一人の僕の目には、あさましい姿でただ、ただ寿司を食らう自分の姿が映っていた。しかしその記事には但し書きが。<お寿司の食べ放題は土曜日と月曜日のディナーのみ>との事。
 こうしたわけで、はやる胃袋を押さえながら大雪の夜にお寿司の食べ放題へと足を運んだわけだ。
 時間制限:二時間、お値段:十八ドル也。

 あの大雪である。「まさか」、とは思っていたのだが案に相違して開店から三十分程しか経たない店内はほぼ満席であった。ギリギリではあったが、待つこともなくなんとかテーブルにつく事が出来た。その後も続々とお客さんはドアをくぐってくる。空席待ちのスペースはあっという間に人であふれ、一種独特の空気に包まれていった。

 ニューヨークに何人の成人した日本人が住むのか、その数の詳細は知らないが少なくともあの大雪の中、その中の0.数パーセントはあの店にいたことになるだろう。これは大きな数字だ。あぁ、あさましき我が同胞達よ。
 ニューヨークには日本人向けに発行されている数誌のフリーペーパーが存在する。その中で今回の<食べ放題>特集をうったものがその横綱であるところは誰もが認めるところだ。東の横綱・朝青龍の強さをまざまざと見せ付けられた夜であったとも言える。もちろん、この横綱相撲には読者のニーズと合致した記事であった側面もあるのだが、それ以上に横綱の恐ろしさを感じたのはそれが純粋な記事ではなく<記事広告>の匂いを持っていたからだ。
 たったひとつのメディアがコミュニティーを牛耳る危険性が、大雪の寿司屋の中には満ちあふれていた。そこにメディアの不遜な笑みを感じ取ることができた。
 考えてもみて欲しい、もし日本においてただ一社の新聞社のみが巨大化した時の事を。国民のほとんどはその新聞社の報道内容を真実だと思い込むことだろう。それは、また当然な成り行きと言えなくもない。報道は常に正確で、偏ったものでないということはない。もしその新聞が虚偽の報道をしたら?ある者に益となる事を前提としてニュースを報じたら?考えるだに恐ろしい。しかも、その報道する者の側に経験と、自らがやっている事の重大性に対する認識が欠落していたら?

 ニューヨークと聞いて<大都市>、<世界の中心>などの言葉を即座に連想される方も多いと思う。それはある意味では決して間違ってはいない。ただ、この街にある日本人社会はとても狭く、閉鎖的であり、まだまだ発展の途半ばにあるコミュニティーと言って間違いはない。 
 この地で情報に携わる《全て》の人にはメディアの責任感と誇りを持って欲しいと思う。日本語媒体のその多くがフリーペーパーという形態をとっている以上、そのスポンサーや広告主の存在は否定することは不可能に近いだろう。ただ、ある程度成熟してきた市場で次に留意しなければならないのは自らが発する情報の影響力の大きさを自覚することだと思われる。暴走が始まる前に。
 同時に互いが共存しながらも牽制しうる健全なものへと成長を遂げて欲しい。もちろん日本からの進出も大歓迎だ。

 政治や経済の世界を見てもわかるように、一極集中による弊害にははかり知れないものがある。選択肢を持たぬ者はただただ踊ら<される>のみ。
 先に挙げたフリーペーパーの前回の特集記事は<肉まん>であった。さて、一体何パーセント日本人ニューヨーカーが肉まんを食べたことだろう?余談だが、この特集の記事構成をどこかで見たことがあるのだが。

 ふくれた胃袋をさすりながら「寿司はしばらくいいな」、と何度もつぶやく雪の夜。
 自分のあさましさを少しだけ反省させる、胃袋の重さと風の冷たさであった。


 頂いたお寿司はとても満足のいくものであった事を付記いたします。
by seikiny1 | 2005-01-25 10:35 | ニューヨーク
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