ニューヨーク、街と人、そして……
by seikiny1
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多期多会
 あまり着ることのないコートに久しぶりに腕を通す。ポケットからライター-が出てきた。
 BIC社製のライター。
 小学生の頃に憧れた四色ボールペン、タバコを喫いだした頃に父の机から失敬した白いライター、冬に外で喫うタバコの先は細長く伸びる、デザインを同級生に自慢したこと、火の大きさの調整が難しく風のある日は難儀したこと、18歳の頃最初にアメリカ製と出会った時の衝撃、チャイルドロックが付き出した頃の煩わしさ、炎が真っ黒なススを出す事を知った時のちらかったアパートの部屋、ガスの減りがはやくなった事に気付いた時にそばにいた友人の顔ぶれ、アメリカでフランス製を発見した時の新鮮さ、ボールペンの滑らかな書き味とすぐインクがボタること、などなどこれだけのことを容易に思い出すことが出来る。

 一体、人の記憶の中にはどれだけの<もの>が詰まっているのだろう?
 記憶=もの、と言っても決して言い過ぎではないかもしれない。ものは記憶という引き出しを開けるための鍵でもある。たった一本の鉛筆の中にも、人はそれぞれ別々のものを見いだし過去に遊ぶことが出来る。もし、この世からものが消えてしまったら多くの記憶はほこりをかぶってしまい二度と引き出しの中から姿を現さなくなってしまうかもしれない。
 風に舞う新聞紙、空きビンが互いにぶつかり合う音、底のすり減ったスニーカー。様々なものが無作為にその姿を現しては記憶を引き出していく。またそれらには記憶だけではなく新しい発見にも満ちあふれている。それまではただ憧れの四色ボールペンだったものの軸をひねってみて開けてみる。そこに今まで考えてもみなかったメカニズムを発見する。それを考え出した人のこと、研究に伴う努力、「なぜ研究者は白衣を着るのか?」、「緑のインクの使い道は?」、などの疑問。記憶と反対側からも色々なことが流れ込んでくる。
 ものとは過去との接点だけではなく、未来への接点でもある。まるでよく出来た関節のようでもある。Flashpoint.

 生きていくということは常に新しい<物>、<者>と出会い、懐かしい<もの>と再会を果たしていくことなのかもしれない。
 無駄な消費をする文化は好きになれないが、僕らはあらゆるものに囲まれて生きている。周りを包むもの達に目を見開いて歩いて行こうと思う。自分を見つめる為に、行く先を見極める為に。

 子供の頃から好きだった場所がある。文房具屋。久々に帰国し、かなりの時間をあちこちの文房具屋で過ごした。そこには憧れ、思い出、そして未来が詰まっていた。色々なものを手にとって眺めては棚に戻すことを繰り返す。ニューヨークに帰ってみると鞄の中からは筆ペンと小さな縦書きノートしか出てこなかった。
 昔、憧れていたこの国に住み暮らして得た最大のものは、自分の中の日本という<もの>。僕は日本への鍵というものを拾いに、アメリカへ来ているのかもしれない。
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by seikiny1 | 2005-01-07 09:10 | アメリカとの距離
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