ニューヨーク、街と人、そして……
by seikiny1
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最高の贅沢
 僕の暮らすアパートのバスルームには比較的大きな窓がある。縦1メートル×幅60センチほどのそれは、まるで一幅の絵のようにトイレに腰を下ろした時にちょうど良い高さに切られている。そこから見えるのはごくありふれたニューヨークのビルの裏側の風景なのだが、そこで過ごすひと時には何物にも換えがたいものがある。部屋が三階に位置すること、いまさら覗かれたってどうともない、という意識でカーテンはいつも開かれたまま。時間が止まってしまったようなそのひと時。赤や青のきれいな鳥が訪れ、リスが空を仰いで鳴き、少し向こう側を走るストリートでは人々が傘を開き出す。無心になれる場所。

 かつてはラジオの深夜放送を録音したテープが机の引き出しを満杯にし、続いて面白そうなテレビ番組や映画を録画したビデオテープが本棚を占領した。本やレコード、CDは常に山をなし書き散らしたメモが散乱する。
 そういったものたちは、その気になればいつでも手に触れることが出来る距離にあるだけである種の安堵感を与えてくれる。たとえ生涯に一度も手を触れることすらなくとも。記録とは安心の形のひとつ。
 記録、そしてその媒体や技術はそういった人間の<もう一人の自分欲>といったものを燃料にして発展を遂げてきた。オリンピックを例に取ると、さしずめ「もっと高く、もっと速く」といったところだろう。「いつかはそれを体験することが出来る。時間をやりくりしで隙間を作り、そこに新たな時間をを埋め込んでもう一人の自分を楽しむことが出来る」、というもう一人の自分を欲する気持ち。それがここまで技術の進歩を導いてきたのだろう。
 同じようなことが移動方法の発達、即ち高速化にも言うことが出来る。
 以前は歩いて数十日をかけた行程を、今では数時間で済ませてしまうことが出来る。「限られた時間をいかに有効に使うか?」この命題に向けて人々は知恵を絞ってきた。かつて「身体がいくつあっても足りない」、と嘆いていた人がこれらの恩恵を受け、それでも「身体がいくつあっても足りない」、とぼやく。乗り物の中で人々は本を読み、音楽を楽しみ、映像に見入る。
 飛行機の窓からは雲しか見えず、新幹線はトンネルの中を走り抜ける。

 毎日数十時間にわたる各局のテレビ番組を録画して、それらを数倍の速さで再生し数時間のうちに見る人がいるらしい。一日に十冊の本を読む人がいるらしい。ひと月に数度しか帰宅しない多忙な人がいるらしい。
 それらの凝縮された時間から彼らはなにを得るのだろう?
 情報?到達間?満悦感?
 「いかに凝縮された時間を送ることが出来るか?」
 これは現代人の価値基準のひとつに数えられる。
 僕の目にはそれが機械との共存、ましてや人間が生きているようには映らない。それは単に機械や情報の奴隷にしか見えない。ムチ打たれて進み、それを喜んでいるマゾな奴隷達。

 「もっと速く、もっとたくさん」の合言葉のもとに我々は進歩し、その生活レベルも向上してきたとも言えなくはない。これからも記録は大容量化、小型化の道を突き進み、速度はどんどん上昇を続けることだろう。人間の欲には限りがない。到達点というものは、はなっから存在しない。
 その見えない目標とは<ゼロ>であるのもかもしれない。人間が求めてやまないもの。何もない、動かない状態。人々が求める何かがそこにはある。

 最高の贅沢とは「いかに凝縮された時間を持つか」ではなく、どれだけ「ゼロに近い時間を持つか」ということではないかと僕は信じる。
 まっ白な時間を持つこと。

 人間の意志に関わらず時は流れる。それは誰にも平等に与えられたもの。そこにはスローモーションも、早送りも、ましてや一時停止などは存在しない。時計の針はいつも一定のリズムで時を刻み続ける。はたして一日にどれだけの白い時間を持つことが出来るのだろうか?


 ニューヨークは<スピードの街>と言われることがある。その一方で白い時間も確実に存在している。これが僕がニューヨークにこだわり続ける理由なのかもしれない。


<追記> 似たようなテーマで記事を書かれておられる方がいらっしゃるので、情報を下記させていただきます。

若きモンスターの逆襲:頑張らない生き方
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by seikiny1 | 2005-01-05 09:45
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