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ニューヨーク、街と人、そして……
by seikiny1
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コンビニの列であまり待たされたことはなかった
「おっさん、これで何回目や?一体俺がいくつに見えるんや?」
 心の中では毒づきながらも、別の意思を持つ指先は財布の中から身分証明書をつまみ出す。三十歳頃まではこれがビールを買う時にキャッシャーのカウンター越しにとり行われる一つの儀式のようなものだった。
 ニューヨークでは二十一歳未満の飲酒は法律で禁じられている。買う方はもちろん売る方も厳罰の対象になるので、店側が神経質になってくるのも当然だ。
 この先も未成年の飲酒が無くなる事はまずないだろうが、もし日本が本腰を入れるのであればこれくらいやらなくてはならないのかもしれない。それに<二十歳未満>という法的な未成年と<高校を卒業したら大人>という慣習的なものの間に存在するギャップを埋めてしまわなければならないだろう。法規制をするのであればもちろん未成年=二十歳未満ということになるのだろう。こういったことは必要であるのかもしれないが同時に残念でもある。日本人が持つ良い意味でのいい加減さがまたひとつ消えていくようで。「そう、がみがみ言わなくても自分でコントロールできるならいいんじゃないの」、こういった事を言っていられないほどに社会は変わりつつあるのかもしれない。全てを規制され、法で固められなければ秩序が乱れてしまう情けなさ。

 自分がそうであったからではないが、未成年の飲酒に関して百%反対ではない。道路で吐きながら、ひっくり返りながら、翌日の頭痛に悩まされながら色々な事を学んできた。それらは教えられたからといってわかるものではなく、学ぼうと思っても学べないものだった。そしてやっとこの歳になって、少しだけだが酒の味がわかってきたような気もする。
 未成年の飲酒そのものよりも、自己の確立やコントロール。それ以上に周りの大人の方に問題があるように思う。新入生の歓迎会などで一気飲みを連発し、急性アルコール中毒になり死に至るなどの事件は論外ではあるけれど、そういう事件が起きる下地は誰が作ったのだろう?それをひとつずつ解きほぐしていかなくては何の解決にもならない。

 秋雨の降る深夜、約十年ぶりに実家の門をくぐる。冷蔵庫にはビールがなかった。母はビールを飲まない。疲れた足を引きずりながらビールの自動販売機を求めて夜の町をさまよい歩く。人にはあまり喋りたくない時もあり、そういった時に自動販売機は誠にありがたい存在なのだが、見つからないものはしょうがない。「ここ十年ほどの間にそれらはほとんど姿を消してしまった」という話はどうやら本当のようだ。ないものはしょうがない、あきらめてコンビニに入る。店の一番奥にある冷蔵庫の一画はビールや発泡酒で埋められていた。きれいに磨かれたガラスの扉に「当店では未成年へのアルコール類の販売はいたしておりません」、と手書きされた小さな紙が見える。
 それからは毎日のようにコンビニでビールや発泡酒を買っていたのだが、たったの一度も「身分証明書をお持ちですか?」という声を聞くことはなかった。もちろん何人も<それらしき>人を目にはしているのだけれど。僕が見た範囲では、あの類の紙はやはり店の立場を客に対して、学校に対して、警察に対して、常識(?)ある人に対して明確にする為だけのもの、ただの紙切れに過ぎないようだった。単なるひとつのフアッション。ポリ袋を下げて犬の散歩をし、誰も見ていなければ糞を放ったらかしにして歩み去る飼い主。その程度のものなのだろう。神社のお札でも貼っておいたほうがどれだけありがたいことか。
 レジに並べば、どこの店でも同じような顔をした店員さんが、同じように乾いた笑顔で、同じ様な言葉を口にする。気付いてみればコンビには質の悪い大きな自動販売機になってしまったようだ。店員さんの口から流れる「いらっしゃいませ」、「ありがとうございます」の声と昔の自動販売機から流れていた機械的な声がオーバーラップする。
 極めて中途半端な無機質な空間。

 コンビニは嫌いではない。「好きか嫌いか?」と訊かれたら迷わず「好き」、と答えるだろう。多くの人の答えもそうであろうと思う。コンビニとはそれだけ影響力がある存在なのかもしれない。

 コンビニに今の日本の縮図を垣間見た様な気がする。
 コンビニのあの手書きの張り紙が政府発行の印刷物に変わる時、日本はまた狭くなってしまうのかもしれない。
by seikiny1 | 2004-12-30 09:37 | 日本
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