ニューヨーク、街と人、そして……
by seikiny1
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道化師という生き方 (2)
 たったの3ヶ月だがホームレス・シェルターにいたことがある。シティーのものではなく教会に付属した定員10人にも満たぬ小さなところに。アパートを失ってまだ日も浅かった頃、公園のベンチで飯を食ってたら拾われた。自分ではは気づいていなくても、もう立派に<それ風>になってたんだろう。
 
 テレビに映る次期大統領と決まったオバマ氏の笑顔をを見ながら思い出していたのは、その当時の同宿人であった黒人Eの顔。休日の朝にはアイロン台の前で数時間を費やし、すべての洋服をプレスする。もちろんGパンにもパキッと折れてしまいそうになるほどにスプレー糊を拭きかけ折れてしまいそうな硬質の線を入れる。それが彼の生き方だった。矜持だった。シェルターでは酒を飲むことは禁じられていたけれど、「チェリー・ブランデーが好物なんだ」と路上でブラウンバッグに入れたビールで乾杯をしながらポツリともらす。
 
 当時いた5人のメンバーで唯一仕事を持っていたのがEだった。住むところはないが、仕事はある。普段はまだ夜の明けきれぬ前に一人だけ起きだして出かけていくのだけれど、雨の日には掃除が始まる直前まで寝ている。どうやら天気に左右をされる仕事をしているらしい、ということを知るのにそれほどの時間はかからなかった。

「おれの仕事かい?ピエロさ」
「……?」
「サーカスで玉に乗るピエロかい?」
 Eの体格は巨体の部類に入る。どう見てもそのシルエットとあのピエロが結びつかない。
「おれは玉になんか乗れないよ。そんなに器用にできちゃいない、同じ玉を相手にする仕事じゃあるけどあれよりはちょっと小さいな。キャディーなんて呼ぶ奴もいるけど、おれの仕事はピエロさ」
「キャディーか。あのゴルフ場の」
「毎朝、電車に乗ってわざわざロングアイランドくんだりまで出かけるんだけどね、給料がそんなにいいわけじゃないんだ。ただチップがよくってね。気前のいい男なんてゴルフセットをポンッとくれるんだぜ。もちろん現金のほかにさ。このシーズンでもう2つもらったよ。どんな仕事かって?簡単なことさ。バカやってりゃいいんだよ。クラブセットを抱えて全速力でダッシュしながら転んで見せるとか、池の中に腰まで浸かって見せたりとか、藪の中をはいまわってボールを探し出して打ちやすそうなとこにポイッと放るとか……。そんなのがおれの仕事さ。とにかくバカのふりをしてやってるだけで奴らは大喜びさ。満足してチップをはずむんだ。競争するみたいにね」

 まだまだ時間はかかるだろうが、少しずつ公平に公正になっていくだろう。同時にある者にとっては厳しい時代がやってくる。何かを手に入れるということは喪うということでもあるのだから。彼らにピエロという生き方が許されない時代になっていく。おどけていたくても。

 ピエロが消え、別のピエロが生まれる。
 老人は、ホームレスは鳩に餌を与え続ける。
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by seikiny1 | 2009-11-15 07:33 | 日本とアメリカと
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