ニューヨーク、街と人、そして……
by seikiny1
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赤鉛筆
僕はこれでなかなかユーモアのセンスがあるんだ。ところがルーシーにはないんだなあ。





ぼくはあいつのことなら、なんだってわかるんだ。本当にどんなことだってわかるのさ。






いや、たまげたね。






そこでぼくはいってやった。遠慮なくいってやったね。






どうも認めざるをえないよ。






リフレインのところを八十五回はやったと思うね。つまり弾きづめに弾いてたってことさ。ルーシーはなんだか、ぼくから十マイルもはなれたところで踊ってるみたいだった。






百万べんも頼んでみた。






どうもあかんぼって、眠っていてもなにか考えてるものらしいね。利口なもんだよ。馬鹿やなんかじゃないね。ぼくはあかんぼの足をつかんで、しばらく手に握っていた。ぼくは子供の足が好きなんだ。べつに意味はないさ。






そこで馬鹿なことをしたもんさ。ぼくは長いこと会わなかった兄弟にでもするように背中をたたいたものさ。






サムがそこにいるような気になった。まったく、どうかしてたんだなあ。






それにしてもぼくときたら、なんともしようのないことをやらかしたもんだ。まさかと思うだろうがね。






おかしな言いかただよね。ルーシーって、ずいぶんおかしなことをいう奴なんだ。へんな子だよ。ぼくがあいつのこと、すっかりわかってるんで助かるのさ。まあね。







ぼくはかまわないね。ほんとうにかまわないのさ。ぼくとしちゃあ、毎晩、雷が鳴っても平気だね。








ジャニタってのはありきたりの女じゃないからな。ありきたりの女なんか女房にするもんじゃないよ。そんな女にはビールでも飲ましてやったらいいのさ。気どった足つきで踊ったりするのもいいだろう。でも女房には向かんな。道ばたでねずみの死んだのを見たらげんこつで殴ってくるような女を見つけるんだ。






ジャニタって女は、おれの見たどえらいことを話してやるたびに鳥肌がたつんだ。どえらい話を聞くたびに鳥肌の立たないような女は女房にするもんじゃないよ。






そういうハンサムな奴らときたら、髪がきちんと撫でつけられていないとか、さいきん女から便りがないとか、少しでも誰かに見られていないとかいう時には、はでなことはやらかそうとはしないものさ。






変な話だなあ。パークさんみたいなひとは、一生涯えらい人間で、―本当にえらい人間でありながら、せいぜい二十人か三十人くらいの男しか、そのことに気がついていないんだ。まして、そのことをパークさんに教えてやったような奴は一人だっていないだろう。女ときたら、なおさらさ。そこいらの女の一人や二人はいたかも知れんが、でも尻をふらないで歩くような女―まっすぐに歩くような女じゃ、わからないね。そういったような女―つまり、パークさんがほんとうに好きなタイプの女たちじゃ、パークさんのあの顔と、へんてこな声とで、もうあきらめちまうのさ。ひでえもんだよ。






パークさんは自分で死に方をえらんだのだ。






パークさんはたった一人で死んでいった。女の子にもだれにもことづてをするでもなかった。合衆国で盛大な葬式がおこなわれもしなかった。はでな野郎が消灯ラッパを吹いてやるでもなかった。
ジャニタにフランキーの手紙を読んでやって、それからおれの知ってることをもう一度、話してやったら、ジャニタのやつが泣き出した。それがパークさんのための唯一の葬式みたいなものだった。ジャニタってのは、ありきたりの女じゃない。ありきたりの女なんか女房にするなよ。パークさんみたいなひとのために泣ける女を見つけることだな。






(おれはこんなのがいいな。こんなに幸福だったことはないな。本を読んでるより、もっと楽しいや。フランシスと一緒のときより、ずっとましさ。こうしていると、おれはいつもの自分よりずっとましな人間になったような気がするよ。さあ、こい。ニュース映画で見たあの日本軍のこそこそした狙撃兵ども!撃つがいい。かまうもんか!)






弟のホールデンが行方不明になったんだ。






「ぼくはニューヨークの3番街と18丁目の角にある男子学生のクラブでよくあいつとぶつかったもんさ。大学生やプレップ・スクールの生徒たちの行くバーさ。クリスマスやイースターの休みに、あいつが家に帰ってるときには、ただあいつを探すだけの目的であそこへ出かけたもんさ。ぼくはよくバーの中を、ぼくのデートの相手をひっぱって、あいつを探して歩いたものさ。すると、たいてい、あいつずっと奥のほうに陣どっていたよ。バーの中で一番酔っ払って騒いでいた。ほかの少年たちはビールばかり飲んでいるというのに、あいつはスコッチなんか飲んでいた。『おまえ大丈夫かい?家へ帰りたくないのかい?金はあるのかい?』ってなあ。すると、あいつめ『いんや。いらねえよ。いらねえんだ、よ兄さん。そのべっぴんさんはだれかね?』なんていったもんさ。そこでぼくはあいつの傍をはなれるんだが、なんだか心配でね。よく以前に、夏の日なんか、あの馬鹿野郎が階段の下にじめじめした下着にはいったトランクを置きっぱなしにしてさ、、物干しにもかけてなかったのを思い出してね。ぼくがそのトランクを拾っといてやったものさ。だって、あいつときたら、あの年頃のぼくとそっくりなんだものな」







「二十」







ああここには、ボビー・ティマーズとテニスの試合をしたとき、ぼくがサーヴで決勝点をあげるのを見て、彼女がベーブ!と叫んだときの思い出があります。その声を聞くためには、それだけのサーヴをして見せなければならなかったのです。でもその声を聞いたとき、ぼくの胸は―ほら、透かして見えるでしょう?―どうかしちゃったのです。それ以来、もと通りになりません。






(彼女はぼくをみじめにする。ぼくに情けない思いをさせる。彼女はぼくを理解してくれない。―ほとんど、いつだってそうなんふだ。でも、時とすると、―時とすると、彼女は世のなかで一番すばらしい女性になるんだ。それは他のだれにも真似のできないことなんだ。ジャッキーはぼくをみじめになんか決してさせない。でもジャッキーはぼくに本当になにかを感じさせるということはないんだ。ジャッキーはぼくが手紙を出せば、その日のうちに返事をくれる。フランシスだと、二週間からふた月くらいもかかる。時によるとぜんぜん返事をくれない。くれたって、ぼくが読みたいと思うようなことは何も書いてないんだ。そのくせ、ぼくはフランシスの手紙は百ぺんも読むが、ジャッキーのは一度しか読まない。フランシスの手紙だと、封筒の筆跡を見ただけで―ばかばかしく気どった筆跡なんだけど―ぼくは世界で一番幸せなおとこになってしまう。






(君はまだ小さな少女さ。でも少年でも少女でも、いつまでも小さいままではいられないんだよ。―ぼくだってそうだったのさ。小さな少女だったものが、ある日とつぜん口紅をつけるようになる。小さな少年だったものが、ある日とつぜん髭をそり、タバコをふかすようになる。子供でいられる時間なんて短いものなんだよ。いまは君はまだ十歳で、雪のなかをぼくを迎えに駆けだしてきてくれる。スプリング通りをぼくといっしょに橇で滑ろうと思ってさ。大喜びでね。ところが明日はもう二十歳にもなって、どこかの男が君を連れ出そうと思って居間で待っている。ある日のこと、とつぜん君はポーターにチップをやったり、金のかかる洋服のことで気をもんだり、女ともだちと昼の約束をしたり、どうして自分にぴったりの男の子を見つけることができないのかと頭をなやましたりするようになる。それもこれも、みんなあたるまえのことさ。でもね、ぼくのいいたいのはね、マティー―もしぼくのいうことに意味があるとすればだね、マティー―こんなことさ。まあいってみればだね、君のもっている最上のものを生かしなさいってことなんだ。もし君がだれかに約束をしたら、みんなからいちばんりっぱな人の約束を得たと思われるようになりなさい。大学でもし間のぬけた子と同室になったら、その子が少しでも利口になれるようにしてやりなさい。君が劇場の外に立っていて、おばあさんがガムを売りにきたら、一ドル持っていたらその一ドルをあげなさい。―ただし、恩にきせたりしないことだよ。そこがたいせつなんだ。






(これがぼくの故郷だ)ベーブは思った。(この家でぼくは少年時代をすごした。いまはマティーが育ちつつある。お母さんがピアノを弾き、お父さんがいつもへたくそなゴルフをしていたのがここなんだ。フランシスが住んでいて、彼女なりにぼくに幸福をあたえてくれたのもこの土地だ。マティーがここで眠っている。敵がきて、家のドアをたたき、あの子の目をさましてこわがらせるということもない。でも、もしぼくが出かけて行って、小銃で敵を迎え撃たなければ、そんなことだった起こりかねない。だからぼくは行く。そして敵をやっつける。それから、また帰ってきたい。帰ってこれたらすばらしいだろう。そうしたら……)






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 本を開いて無性に腹が立ってしまった。

 繰り返し飛び込んでくるうちに少し興味が頭をもたげてくる。

 それでもやっぱり腹が立つ。

 古本屋で見つけた本であるなら、これも個性のうちでいろいろと空想をしながら読むこともできるが、これは図書館の本。いたるところで赤鉛筆で引かれた線が飛び出してくる。所蔵されているのは日本の図書館ではなく、Brooklyn Public Libraryの日本語セクション。こんな阿呆のせいでコレクションが細くならなければいいが……。というよりも、恥ずかしい。

 ブック・オフが出来たとはいえ、フリーペーパーが氾濫しているとはいえ、いまだに日本の書籍は貴重なもの。ミッドタウンの旭屋書店は今月いっぱいで閉店をする予定で、これからは紀伊國屋書店の独壇場となってしまう。
 実は、Brooklyn Public Libraryではこれまで紀伊國屋書店より仕入れていたようだが、最近の新着本を見るとブック・オフの値札のつくものが多い。不景気のせいもあるのかもしれないが、ひと月ほど前に日本語セクションの本棚が数本増やされたことを考え合わせると、限られた予算内でコレクションを充実させていく方向なのだろう。

 ちなみに上の赤線本はブック・オフからのものではない。
 サリンジャー選集2 『若者たち<短編集Ⅰ>』
 おもしろいんだけど、翻訳ではやはり本物の持つリズムというかビートが今ひとつ伝わってこない。翻訳者の方にそこまで要求するのは酷なことかもしれないけれど、これは翻訳ものを読むたびに感じることで、日本にいる頃、外国ものにほとんど触手が伸びなかった理由もこれ。当時、外国の小説は面白くないものと決め付けていた。ストーリーの面白さはみとめるのだけれど、引き込まれる力がない。
 ホームレスをやって「よかった」と思えることのひとつに、英語の本を読むようになったということがある。欲望は障壁を叩きこわす。でも赤鉛筆はやめてね。
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by seikiny1 | 2009-10-03 01:45 | 日ごろのこと
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