ニューヨーク、街と人、そして……
by seikiny1
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So Far Away
 出発の前日であるというのに実感がまったく湧いてこない。コーヒーを片手にタバコを吸っていると口をついて歌が出てきていた。そういえばあの日もこの歌だった。

 一回目とは比べ物にならないほどに緊張感がない。グリーンカードを手に入れたという事実よりも、もっと大きなものが心のひだに染み込んでいたのだろう。二回目の帰国の朝、早起きをしすぎてしまった僕は、もうやることもなくなってしまい、カーサービスが迎えに来るまでの二時間余を新しくできたコーヒーショップで過ごすことにした。

 あれはまだ緑色の看板がマンハッタンを凌駕してしまう前のこと。耳慣れないStarbucksという店名をやっとおぼえた頃だった。静かな音楽の流れる、照明の落とされた店内は週末の朝であるというのに人の姿はまばらで、コーヒーの香りとカップルのささやくような声しかない。アパ-ト前の横断歩道を渡りながら玄関に本を忘れてきてしまったことに気づいたのだけれど、春先の陽射しは「ま、いいか」という気持ちにさせてくれる。

 それでも、紙コップのコーヒーがそろそろぬるくなりかけた頃にはガラス窓の向こうの風景にも退屈をしはじめていた。そんな時にあの歌が流れはじめた。スピーカーからではなく、頭の中のどこかで誰かがつぶやくように歌っている。どうしたわけで流れはじめたのか、なぜその歌であったのかはわからない。歌はリピートボタンを押されたかのように終わることなく延々と流れつづける。

 気づかぬうちに、これまで自分が歩いてきた道をふり返り彼方に忘れてきてしまったものを見つめていたのかもしれない。

 どこまで続くかわからない道にため息をつきながら、はるか遠くにうっすらと映る蜃気楼のようなものを見ていたのかもしれない。

 物理的な距離の変わることはないのだけれど、精神的な距離というものには振幅がある。日本を捨てるようにして出てきたことに比べれば、一時帰国など大したことはない。そんな半分捨ててしまった生まれ故郷、家族の顔を思い浮かべていたのかもしれない。

 昨日よりもいくらか寒さがやわらいだとはいうものの、今朝は小雨が降り続いている。スーツケースを持った係員が笛を鳴らし、タクシーに合図を送る。僕はホテル前の車寄せ近くに腰を下ろしコーヒーを飲んでいる。あの日と同じ曲が口をついて出てきていた。

Dire Straits 「So Far Away」

Here I am again in this mean old town.
And you’re so far away from me.
And where are you when the sun goes down.
You’re so far away from me.

So far away from me.
So far I just can’t see.
So far away from me.
You’re so far away from me.



 明朝、日本へ帰ります。






 そして朝になりました。
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by seikiny1 | 2008-12-25 23:21 | アメリカとの距離
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